洗足学園小学校様
1949年(昭和24年)開校、児童全員が中学受験にチャレンジするなど特徴的な教育活動を展開している。現在は約450名の児童が、あらゆる施設・設備が美しく機能的に配置された校舎で学んでおり、校庭にはころんでも怪我をしないように配慮された特殊な人工芝を備えている。学級農園やビオトープも設けられており、野菜・草花の育成や自然観察も行えるようになっている。
iPadは特別な道具ではなく日常生活に欠かせない道具
【お話を伺った先生方】
赤尾綾子教頭先生
宮田好展先生
目指す教育
貴校が目指す教育理念を教えていただけますでしょうか。
(赤尾教頭)
社会に奉仕貢献できる人材、すなわち社会のリーダーとなる人材の育成を目指しています。本校の考えるリーダーというのは、会社のトップや政治家といった特定の職業を意味するのではなく、小さな組織でも自分でチームを引っ張っていける人材、社会を変えていける人材を指します。現在は、ICTを活用した学習によってこれからのリーダーに必要な4つの基礎能力(思考力・創造力・コミュニケーション能力・チームワーク力)を高めることを目標としています。
ICT教育に対する貴校の考えを教えていただけますでしょうか。
(赤尾教頭)
デジタルが当たり前になった世の中では、デバイスの使い方を学ぶだけではなく、自身で使用方法や使用時間を調整していくことも必要になります。小学校のうちからデバイスに触れ、活用について学ぶ必要があると考えています。児童にとって、iPadは特別な道具ではなく日常生活に欠かせない道具なので、その道具を正しく使い、自分の生活に活かす方法を学ぶ必要があります。プログラミングがどのくらいできるか、文字打ちがどれくらいできるかではなく、普通の道具を普通に使い、その上で、プログラミングを極めたい児童は極めればよいと考えていますので、本校ではいわゆる情報の授業というのは行っておりません。
入学を希望する児童や保護者の反応はどのようなものでしょうか。
(赤尾教頭)
日頃から、家庭でどれほどICT端末に触れているかで各々捉え方が変わるようです。鉛筆を持つ時間が減っても大丈夫なのかという声もある反面、小学校のうちからこのような教育環境に身を置けることに対しての喜びの声も頂戴します。本校のICTを取り入れた授業を体験していただくことで、デバイスが調べ学習をするための道具だという保護者のイメージを払拭することができたと感じています。
iPad導入経緯
デバイスをiPadに選定した理由を教えていただけますでしょうか?
(赤尾教頭)
問題集や資料をデジタル化することで、児童の荷物を減らしてあげたいという思いがデバイス導入のきっかけでした。高額なデバイスを保護者に用意していただくことになるので、どのデバイスを選択するか学内で慎重に検討をしました。
数多くあるデバイスの中でもiPadを選択したのは、Apple Pencilがあったからです。というのも、デバイス導入にあたり、当時、キーボードを使った文字入力にどのように対応するのかが議論になり、ローマ字やアルファベットを学習前の1,2年生にどのように、キーボード入力を教えるのか、そのための時間は捻出できるのかなどの課題がありました。検討の過程で、そもそも本校で目指す教育が、全員にキーボード打ちをマスターさせることではないという原点に立ち返り、iPadとApple Pencilがあれば、キーボードがなくても十分にデバイスを活用できると判断しました。現在iPadを使用していない授業はなく、委員会活動や係活動、休み時間でも児童は自発的にiPadを使用しています。
Apple製品特有の機能の良さ
Apple特有の機能の良さはどのような点であると考えますか。
(赤尾教頭)
本校はApple製品が当たり前にある環境にいるので、他の製品と比較する機会がないのですが、Apple特有の機能であるAirDropは、データを気軽かつ簡単に送ることができるため、児童はデータをチーム内で共有する際に積極的に使用しているようです。他にも内蔵されているアプリの機能性が高くとても魅力的です。
(赤尾教頭・宮田先生)
内臓アプリが豊富で使い勝手が良く、何よりもクリエイティブな活動に適しています。例えば、 運動会当日に流す曲を内蔵アプリのGarageBandで児童に作曲してもらっているのですが、これほどの性能があるアプリケーションが無料でつかえるのは、かなりのメリットです。また、教員が細かくアプリの使用方法をレクチャーするのではなく、児童自ら機能を学びながら利用できるのも利点だと思います。
ICT化によって児童が身につく能力
iPadを教育現場で使うことの良さや児童が身につく能力はどのようなものでしょうか。
(赤尾教頭)
冒頭でお話しした、本校が高めたいと考えている4つの能力のうち、特に創造力とコミュニケーション能力はICTによって培われる部分であると思います。例えば、児童にとって絵や作文を修正するための消す作業は、綺麗に消せず、紙もぐちゃぐちゃになりやすいので、やる気を削ぐ原因となりがちです。iPadの場合、ボタン操作一つで修正ができ、修正前後の比較をしながら作品を作ることもできます。その結果、学習意欲を高めさせ、創造力を身につけることに繋がっています。
(宮田先生)
一つ挙げるとすると「こだわる力」ではないかと考えます。iPadを使用することで、微調整が簡単な分、より質の高い作品を仕上げたいという想いが芽生えたように感じます。また、データを簡単に共有できるので、仲間と連携しながら作品を作ることもできます。 教員も十分にメリットを感じており、iPad一台で、授業で使用するプリントの作成から児童への一括配布まで全てを完結させることができます。授業準備が楽になりましたし、教材研究も気軽にできるので、仕事の効率化に繋がった印象です。
学校内外での活用法、児童の吸収力
校内でのiPad活用例を教えていただけますでしょうか。
(宮田先生)
私は社会科の担当なのですが、以前は教員がスクリーンを使って説明をするだけの授業が多くありました。現在では、iPadがあることでなるべく教員が話す時間を減らし、児童に考えてもらう時間や協力して解決してもらうような活動を増やしています。
(赤尾教頭)
理科が専門なのですが、元々授業内で実験がある分、社会科ほどの変化はないかもしれません。例えば、実験データや器具の使用方法をノートではなく、デジタルベースでまとめることによって、過去に学んだ内容をいつでも簡単に振り返ることができるようになりました。一度しかできない実験の様子を動画で撮影することで、何度も繰り返し視聴して検証できたり、昆虫のからだの様子は写真を撮って拡大してじっくり観察したり、スロー再生で変化を詳しく確認したりなど、撮影・編集が簡単なiPadだからこそ実現できる学びもあります。
その他にも係活動や委員会活動において、以前は紙のチェック表を児童と教員で共有し管理していましたが、現在ではiPadでデータ共有をすることで双方の時間短縮化に繋げています。
学校外でのiPad活用例を教えていただけますでしょうか。
(赤尾教頭)
高学年の児童は、日常生活の中でiPadを自然に活用している様子が窺えます。iPadで自宅位置と目的地を設定し、ルート検索を用いながら何時まで遊ぶことができるかを調べ、スケジュールを全てiPadで管理できるようにしている児童がいたときには、大人の私よりも使いこなしていて驚きました。
児童がここまでデバイスを活用できている理由はどこにあるのでしょうか。
(赤尾教頭・宮田先生)
子どもは恐れず色々なキーを押すことができる分、大人より操作の呑み込みが早い印象です。iPadOSのソフトウェア・アップデート時に追加される新機能もよく観察していますし、こちらが色々な機能を紹介しようとすると既に知っていることがよくあります。休み時間に、児童が我々に対して操作方法をレクチャーしてくれる機会もあるくらいなので、iPadのあらゆる機能を使いこなしている様子が窺い知れます。また、大人との着眼点の違いとして、iPadOSのバージョンアップが完了したことの見極めを、完了画面の確認ではなく、アイコンのデザインが変化したことで確認している児童もいます。
Apple Distinguished School認定校として
ADSを目指すきっかけ
Apple Distinguished School(以下ADSと記載)を目指すきっかけを教えていただけますでしょうか
(赤尾教頭・宮田先生)
最初にADSという制度を紹介してくれたのは御社だったと記憶しています。提案当初は申請書の準備など、一部の教員の仕事が増えるイメージがあり反対していたのですが、コンセプトを知り、認定を受けた場合教員が何を得られるかを考えた結果、教員側の学びも深まることが十分に期待できたので挑戦することを決めました。2019年に申請をし、無事認定されたというのが経緯です。
ADS認定理由
ADSに認定された理由はどこにあるとお考えでしょうか。
(赤尾教頭)
導入当初ICTについて詳しい知識を持った教員もおらず、他校のようにADE(Apple Distinguished Educator)がいた訳でもありません。全教員がiPadを使えない状況からのスタートでした。ある教員なんかはブラウザのSafariを開いてと言われた瞬間、頭に草原が思い浮かんだと言っていたくらいです。また、15年ほど前から校務でWindowsデバイスを使用していたこともあり、そもそもiPadを導入すること自体反対する教員も相当数いました。その状況から手探りで始めていったので、全員で助け合う状況が生まれ、教員のスキルアップに繋がりました。割と早い段階で全員がある程度まで使用できるようになったのが、理由の一つだと思います。教員の専門外の業務を外部に委託して、教員はiPadを使った学びのデザインに注力できる環境を整えました。これはADS認定に向けた準備においても効果的で、ADS認定を受けられた間接的な要因の一つに挙げられると考えます。当時は小学校でADS認定を受けている学校があまりなかったので、御社の担当者に色々と助けていただいた部分も非常に大きかったと感じています。
ADSを目指す他校へアドバイス
ADS認定を目指している学校にアドバイスをいただけませんでしょうか。
(赤尾教頭)
ADSのプログラムは大変すばらしいプログラムです。本校はこのプログラムに参加することで、新たな学びの機会をいただき、他校とのつながりから交流授業を行うようにもなりました。ADSの認定はAppleのテクノロジーを使っていることだけを重視していません。「学校がどのような学びを理想に掲げているか(ビジョン)。そのビジョンを教職員間で共有し、実現するためにテクノロジーを使えているか」「イノベーションを起こしているか」といった点が重視されているように感じています。これらは、認定校になるためではなく、学校づくりのために重要な視点だと思います。まずは、ルーブリックを確認し、ご自身の学校の実態と照らし合わせてみてください。学校の状況を客観的に見てみるだけでも参考になることは多いと思います。また、本校をはじめとするADS校とつながっていただくことで、何かできることがあるかもしれないと考えています。
ADS認定によって学校が享受されたこと
ADS認定を受けたことで学校側が享受されたことはありますでしょうか。
(宮田先生)
ADS認定を受けたことでAppleや他のADS認定校と交流する場に呼ばれるようになりました。国内で最先端の教育に取り組んでいる方々から情報をもらえますし、海外で実施されるADS認定校の集まりに参加することで、世界水準の取り組みを聞く機会が得られました。
年に数回、交流がある他のADS認定校とオンライン上で交流授業を実施することもあります。交流授業があるお陰で、児童だけではなく、教員同士も日頃から連絡を取り合う機会が生まれました。そのように多くのつながりが得られたこともADS認定を受けたことで得られたものだと考えます。他にもADS認定校になってから、教育関係者を招待してOpenDayというイベントを開催しています。それまでこのようなイベントを実施したことがなかったので、開催にあたり多くの教員の協力を必要としました。他校の教員に自校の取り組みや実践例をアウトプットする機会を得られたことで、個々の教員が授業構成をより工夫するようになりました。
(赤尾教頭)
日頃から授業を視察に来る教育関係者の方が増えてきました。誰かが見に来られるとなると、教員も「少し新しい取り組みに挑戦してみよう」という気持ちになるので、教員のスキルアップにつながっていると感じています。
ADS認定のために教員間の組織づくりで工夫したこと
苦手意識を持つ教員に対してどのようなフォローをしたのでしょうか。
(赤尾教頭)
ADSの認定をとるためということではなく、全教員にデバイスを使ってもらうことが非常に大事だと思ったので、組織作りはかなり工夫をしました。本校では教員を1名増員し、授業実施者とは別にICTのサポートをする教員をつけるようにしました。全学年12クラスが授業を受けている時間に授業担当者とは別の1名が「ICT補助」という立場で授業をサポートすることにしました。例えば新しいアプリを授業内で導入したい時に、その補助役の教員が授業に一緒に入り、教員2名体制で授業をするようにしました。サポートの教員はICT活用に秀でた教員だけを配置するのではなく、空き時間であれば苦手とする教員にも割り振りをしました。苦手な教員にとって、ICT活用が上手な教員の授業を見学したり、児童へのサポートを通じて、新たな活用法を発見したりする機会となったようです。結果的に苦手な教員にとって経験値を上げるきっかけとなりました。
その他にも、管理職発信ではなく、教員が自主的に始めたICT_caféという放課後の20〜30分間を使って情報共有をするという取り組みをしています。例えば、Keynoteに新しく追加された機能が面白いので使ってみませんか?というテーマで、iPadの様々な機能を教員が半分遊び感覚で体験します。今、振り返って良かったと思うことは、その取り組みがこのアプリを使って授業をしましたという報告の場にならなかったことです。というのも、アプリがなくても授業ができると考えている教員はそもそも話に興味を示さないでしょうし、授業の進め方を押し付けられるような感覚を持ってしまう可能性があったからです。
一貫して教員側が体験する時間とすることで、デバイスを使用すること自体が面白いと感じてもらえるようになりました。また、一生懸命その場で覚えなくてはいけないという雰囲気の場ではなかったので、どの教員も抵抗なく参加することができたようです。結果的に、以前にICT_caféで体験した機能を使えば授業がうまく構成できるかもしれないと思った時に、教わった教員にもう一度使い方を聞いてみようといったやり取りが自然に生まれ、授業にICTを組み込むことに意欲的になりました。
教員組織
教員がICTスキルを身につけるために工夫したことはありましたか。
(赤尾教頭)
本校では、全教員が最低限のICTスキルを持つべきだと考えています。それらを学ぶために、勤務時間外や休日を使うのではなく、勤務時間内であっても外部出張へ行きやすくすることで、全校を挙げて支援できるような体制を整えました。また、学校の組織体制が変わることはあまりないのですが、ICTの活用は日々変化していくので、その変化に合わせて組織を変えていく必要があると感じました。当初は、ICT推進委員会のコアメンバーだけで推進活動をしていたのですが、嬉しいことに委員会に参加を希望する教員が年々増えてきました。そのため教員ごとのスキルに合わせ仕事を割り振るよう校務分掌を作り、全教員がICTに携わることができるような組織体制へ変更しました。その結果、特定の教員だけに負担が偏ることなく、全員で協力しあう体制の構築に繋がりました。
その他にも、全教員が目的を持って研究を進めるために、「Everyone can be a specialist」制度を導入しました。教員一人一人に担当したいアプリやサービスを選んでもらい、スペシャリストになってもらうことを目指していく制度です。担当している分野のワークショップに積極的に参加をしてもらい、何か困ったことがあった際の解決窓口になってもらうことで教員のスキルアップを期待しています。
ICT化に対する教員同士の意識差の埋め方
ICTに苦手意識を感じる教員と積極的に活用したい教員の意識の差が埋まらなくて苦労しているケースもよく聞きます。貴校は教員同士の意識差をどのように解消したのでしょうか?
(赤尾教頭)
活用方法について教員同士で意見が対立することもありますが、本校では教員同士話し合いができる環境となっています。両極端な意見が出ても、最終的にチームを同じ方向に向かうよう先導できるリーダーシップを持つ教員がいたことがよかったです。
宮田は、実現していきたいことに対し、それをうまく組織内に浸透させるような役割を担ってくれています。以前2人で『仕組みと仕掛け』の話をしていたのですが、管理職が仕組みを作り、ICTを統括する宮田が仕組みの中でどのように組織に仕掛けていくかというところを考えてくれています。勤続年数の長い教員が上手に活用できるようになったのは、宮田がこまめに話しかけ、色々なことをやってみませんかと巻き込んでくれたからだと思います。
どの教員も当たり前のようにiPadを教育活動で使用している環境はなかなか珍しいことのように見受けます。どのようなプロセスを経て今の状態となったか、推進される立場の宮田先生のお話をお伺いできますでしょうか。
(宮田先生)
全教員がICTを面白いと感じてもらえるように、教員向けにICT_caféを続けてきたことに意味があったと感じています。実施することに満足するのではなく、授業での活用方法の問い合わせがあった際に自分の仕事は後回しにしてでも相談しやすい雰囲気を作り、早めに解決するよう心がけていました。当初iPadがなくても授業をすることはできると言っていた教員も、今ではiPad無しでは困ってしまうかと思います。最初の手応えのようなものを掴めれば、後は教員が自走できるようになることもデジタルの魅力であると考えます。
多くの学校はICTに特化している教員をよりスキルアップさせるために外部の研修会に参加させることが多いと思いますが、本校ではICTが得意な教員と苦手な教員をペアにして外部研修に出かける機会もつくっています。他校の事例を実際に目にすることで得られるものは多いですし、何よりも価値観が変わると考えます。私自身も外部研修に参加したことで得られたことは多かったです。
あらゆるトラブルを日々迅速に対応いただいている
加賀ソルネットに満足していること・今後期待すること
弊社のサービスで満足している点はありますか?
(赤尾教頭)
導入時から共に苦労し、大変な思いを乗り越えてきたので、パートナーとして一緒に頑張って来たような気持ちです。長年の信頼がありますし、あらゆるトラブルを日々迅速に対応いただいているところがありがたいと感じます。その他にも、本校教員のスキルを加味したご提案をいただいたことも過去にありました。そこまで見てくれる企業はあまり多くないと思うので、パートナーとして一緒に歩んできて良かったと思いました。教員は困ったことがあるとすぐに御社に電話をさせていただくのですが、真摯に対応いただける点に満足しています。
今後、弊社に期待することを教えていただけますでしょうか?
(赤尾教頭)
御社にパイプがある学校同士で交流ができると面白いと思います。小学校に限らず多くの学校と交流する機会を仲介いただけると嬉しいです。
(宮田先生)
MDMの操作方法をレクチャーしてもらうなど、教員のスキル向上の手助けをしていただきました。学校側でもできることを増やしていった方が良いと思うので、今後も私たちが学んだ方が良い内容を積極的にご提案いただきたいです。日々教員がサポートをお願いしていますが、一刻も早く指示が欲しい場面が多いのでより迅速にご対応をいただけることを期待します。
Base_C
(赤尾教頭)
2023年4月から新しくBase_Cという場所を作り、デジタル地球儀やロボットと共にiMacを置いています。児童が自由に使用できるようにしていて、iPadにはない機能を使って自由に作業ができるようにしています。教員からは電源ボタンを教えただけで細かな操作方法は教えていないのですが、児童同士教え合い、試行錯誤しながら、日々活用方法を身につけているようです。